第3話
ゲーゲオルグ






「正義の味方、黄金バット!!」




【原案】加太こうじ 【脚本】きとうりんぺい、加藤有芳、島内三秀
【放映】昭和42年4月15日



STORY


 山々に囲まれた小さな部落。貧しいながらも平和なこの村に、ある日突然恐怖の嵐が吹き荒れた。
 村に住む羊飼いの父子たちが目撃したのは、禍々しい暗雲から落ちて小鳥や羊を焼き殺す雷、作物を吹き飛ばす強風。やがて雲を割って現れたのは、巨大な円錐形のタワー!
 塔から発せられる声は、自分たちは村人を幸せにするため来たのだと告げる。それを信じ集まった村人たちに、塔から現れた謎の男・マゾが高圧的な態度でこう言う。
「お前たちは今から我々のために働くのだ!」
 気がつけば村人たちを銃口が囲んでいる。平和な集落は憎きナゾーに侵略されてしまったのだ。
「いいか、決して逃げるでないぞ。逃げ出す者は殺す!」

 この非道に恐れおののいた人々は夜を待って逃げ出そうとしたが、ナゾーの部下は容赦なく脱走者を処刑する。自由を奪われた村人はナゾーの奴隷となり、その野望のため過酷な強制労働に就かされることとなった。ナゾーはこの村に侵略活動の拠点となる基地を建設し、新兵器「人間タンク・ゲーゲオルグ」を造り上げようとしていたのである。
 悪魔のようなナゾーの暴力に虐げられ、元農民たちは休むことなく労働を続けた。日照りの夏も、吹雪の真冬も……。「ナゾー帝国」は数多くの生命を踏み躙りながら、着実に完成へと近づいていった。
「わしは現代のジンギスカン、世界の独裁者だ!」
 世界征服の夢に酔い痴れるナゾー。一方、元羊飼いの男は父の死を知って嘆き悲しむ少女ナタールの姿を見て、村を脱出し窮状を訴える決意を固める。
 しかし警備の厳重さは予想を超えており、彼の計画は失敗に終わった。だが後日、反重力板の誤作動によって彼の息子が期せずして村から脱出したのだった。
 半重力板と共に空を漂流していた少年を保護したのはヤマトネ博士一行だった。少年は衰弱していたが、うわごとにナゾーの名を繰り返し続けた……。

 ナゾーの悪事が明るみに出ると、すぐさま国際会議が開かれた。登壇したヤマトネ博士は、科学者たちに大いなる敵の正体を発表した。
 40年前に世界一の科学者といわれたエーリッヒ・ナゾー。先の世界大戦争において世界征服を企んだ国に属し、その結果死亡したはずの人物が、実は生き延びて大軍団を結成していたのである。
 国際社会の期待を一身に背負い、ヤマトネ博士はナゾーとの対決に臨む。スーパーカーは中近東の村へ向かった。

 例の村では既に基地が完成し、村人全員を処刑する準備が進んでいた。それは機密を知る危険分子の排除であると同時に、ナゾーの世界征服開始の残酷なる前夜祭でもあった。
 だが村人も黙って死を待つわけではなかった。抹殺計画を察した人々が闇夜に紛れて一斉に逃げ出す。銃弾乱れ飛ぶ基地上空に飛来したスーパーカーは、閃光を放って村人たちに加勢する。すると闖入者を狙ってナゾータワーから砲弾が射出され、更に混乱の度合いが増した。
 終わらない戦いの中でマリーは黄金の蝙蝠に祈る。すると――。
 ハハハハハハハハハハハ……アハハハハハハハ……!!
 高らかな笑い声を発し、空から正義の味方黄金バットがやってきた!
 黒服の戦闘員を薙ぎ倒し、大砲を叩き壊して黄金バットは突き進む。業を煮やしたマゾは自らゲーゲオルグに乗り込みバットに向かう。しかしながら、正義の前にはゲーゲオルグも無力に等しかった。
 黄金バットに破れたナゾーとマゾは、基地とゲーゲオルグを捨てて南極に逃げ去るのだった。

 着陸したスーパーカーに村人たちが駆け寄り、勇敢なヤマトネ博士を讃える。羊飼いの父子も再会を果たして、暁の空の果てへと遠ざかる黄金バットを見送った。


CHARACTER FILE

【羊飼いの父子】

 中近東にある平和な部落の住民。他の村人同様にナゾー軍に捕らわれ過酷な強制労働を強いられていた。
 ナタールの父の死をきっかけに脱走を計画するが失敗、父は監禁され、息子は父の分まで労働を課されることになった。この際息子はナゾーの部下が振るった鞭のために誤作動を起こした反重力板に掴まって空に逃れ、スーパーカーに救助される。これによってナゾーの悪行がようやく白日の下に晒された。父は基地の爆発時に瓦礫の下敷きとなっていたが、戦いを終えた黄金バットに助け出されて親子の再会を果たす。
 演:小林清志(父)、貴家堂子(子)


【部落の老人】

 ナゾーに占領された部落からの脱走を試みた住民の一人。追ってきた戦闘員に銃を突きつけられてなお、かつて村にあった平和の尊さを訴えナゾー支配下からの離脱を強く求めたが、哀れにも熱線銃で撃ち殺されてしまった。


【ベー2号】

 マゾが用済みと判断した奴隷たちを「整理」するため用いた高速電子分解装置。「へー恐ろしいもんすなぁ」と、あくまで他人事といった感じの態度で部下がスイッチを入れ、多くの罪なき人々が犠牲になった。


【ゲーゲオルグ】

 ナゾーが開発した巨大ロボット。全高20メートル、原子エネルギーによって空や海での移動も可能な「世界を征服し地球上の全人類に号令するための最大の武器にして要塞」。原子砲を装備しており、容易にビルも破壊する。
 農民たちを強制労働に従事させて建造し、対黄金バット戦でマゾが搭乗して初起動する。が、ものの数秒で右腕を切断されてコントロールを失い、ナゾータワーに掴まって退却を試みた。しかし黄金バットの追い打ちで左足をも切断されて基地に墜落、ミサイル等に誘爆して村を火の海にした。この際反重力物質だけはナゾーに回収されていたため、改良機種量産の可能性が残されてしまった。


【ナタール】

 羊飼いの父子とも親しい部落の少女。一人称は「あたい」。父はナゾー軍の手にかかり亡き者とされてしまった。その後、生き残った村人たちの大脱走計画に参加する。


【国際連合科学者会議】

 ナゾーが部落を占領していることが明らかとなって招集された。悪の大科学者ナゾーの生存と暗躍を知るや「ヤマトネ博士!ナゾーを倒してください!」という意見に全員一致で拍手を浴びせた。


TOPIC


○カタログスペックは黄金バットの前では無意味である。わざわざイメージ映像まで挿入してその脅威をアピールしたゲーゲオルグも、まともな攻撃ひとつ当てられないまま無様に破壊されてしまったのだから痛快だ。
 ゲーゲオルグは紙芝居に登場した怪タンク(大人間タンク)をリファインしたキャラクター。ビルの町にガオーとしそうな黒くて丸っこい姿は怪タンクとあまり変わらない。サブタイトルにもなっているのだから強敵としてさぞ猛威を振るうのだろうな……と思ったら衝撃的なまでの弱さ!
 本当に出てきただけで倒されてしまい、第1次ナゾー帝国はあっという間に崩壊した。20メートルの鋼鉄の塊のわりには足音もやけに軽い。製作費をケチったのではなかろうか。

○ナゾー軍の副官マゾが初登場。初めて名前を聞いた時こそ「マゾwww」と思うが、次第に被虐趣味者を「マゾ」と呼ぶことに違和感を覚えるようになるだろう。そうなったら貴方もナゾー軍の一員です。
 ちなみにマゾヒストはオーストリアの小説家ザッヘル・マゾッホを語源として19世紀後半に生まれた言葉であるため、マゾという名の人物がいても何らおかしくはないだろう。マゾは「マゾー」と呼ばれることもあるが、実はこちらの方が出身地での発音に近かったりするのかもしれない。そういえばナゾーの出身地らしいドイツはオーストリアとは距離的に近い国同士である。

○今回も開かれた丸投げ会議。「ヤマトネ博士!一刻も早くナゾーを倒してください!お願いします!!」という壮大な依頼を引き受けるヤマトネ博士は人類の宝だ。参加者の前に置かれたネームプレートが「H・B」「Jase・Pxy」「X・Y・Z」とデタラメなのが笑えるが、実は本作で世界各国の人々が集まるときのお約束だったりする。世界大戦争の件といい、こういうシーンでは具体的な国名を出すことを避けていたのだろうか。

○初めて明かされるナゾーの過去。40年前、「世界大戦争」において世界征服を企んだ国に与した天才科学者が正体だという。最終回などの描写を見るにまだ誰も知らない真の姿も隠されていそうだが、これでひとまずヤマトネたち科学者は敵が何者か見定めたことになる。
 世界大戦争は当然、第二次世界大戦をモデルとした戦争だろう。それが40年前となると、本作の時代設定は1980年代半ばを想定していたということか。厳密な設定はないと思うが、当時からみて漠然とした近未来を舞台としていたのは確かだろう。なおエーリッヒはドイツ語圏の男性に多い名前。戦後紙芝居版のナゾーがナチス残党として描かれたことからも、彼の出身国は明らかだ。
 4つの眼が放つ光線の詳細もナゾー本人の口からノリノリで説明される。曰く、赤い目の光は全ての物を焼き尽くし、黄色い眼の光は全ての物を凍らせ、緑の目の光は全ての物を石のように硬化させる。青い目からは実際に光線を放って威力を見せつけた。大木が一瞬で木端微塵になったことから、さしづめ全ての物を爆破する青い目の光といったところか。後の回でこの設定が生かされたかどうかに言及するとナゾー様に処刑されるので黙っておきます。

○黄金バットは日本語を覚え始めたのか、今回初めて「正義の味方黄金バット!」と自ら名乗る。主題歌インストをBGMにした戦いが燃える。

○配信やDVDで視聴していてやはり気になってしまうのは音声の編集。おそらく「部落」と言っているのであろう箇所が徹底的に伏せられていて非常に不自然だ。なんでこういうことしちゃうかなぁ……。被差別部落と部落では意味が違うし、劇中でも悪意を持って使われているわけではない。不特定多数が視聴する再放送や配信ではともかく、限られた人しか購入しない映像ソフトでこういう措置はやめてほしかった。黄金バットクラスの作品ともなれば文化/資料的な観点から「そのままの形」を残しておくことも重要だと思うのだが。

◎今回の「助けてこうもりさん」

「あのとき祈ったらこうもりさんが現れてくれたわ。今度もきっと黄金バットさんが助けてくれる。お願い、こうもりさん助けて……!」
 マリーの祈りが黄金バット召喚の鍵であることが明確に示された。

◎次回予告
「ヤマトネ博士の考えた新兵器・103号の秘密を盗もうとする怪しい男。103号の秘密とはいったい何か?平和のために役立つというその武器も、悪いことにも利用できるというのです!その悪い敵とはいったい誰か!そうです、宿敵ナゾーです!ナゾーを倒す者、それは正義の勇者・黄金バットです!だが敵は強力なロボット・ゲーゲーオルグを使って黄金バットに迫ります。黄金バット危うし!来週お送りする黄金バット『危機一発』にご期待ください!」



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2014.4.4

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